いすころりんこ

広がるマドフ・ショック　本社ビル内に詐欺拠点
2008/12/16

　「ねずみ講」に似た手口で投資家に５００億ドル（約４兆５４５０億円）の
損失を与えた疑いで米中堅証券、バーナード・マドフ証券の
バーナード・マドフ社長（７０）が先週、ＦＢＩ（米連邦捜査局）に逮捕され、
日本の野村ホールディングスをはじめとする世界の金融機関やファンドに
被害が広がっている。社員にさえ立ち入りを禁じた秘密のフロアが史上最大の
詐欺事件の拠点になったとみられている。金融当局のずさんな監督体制の見直しも議論されそうだ。

　≪サイドビジネス≫

　投資家の発表やブルームバーグの調査、他の報道によると、野村ホールディングス、
英銀大手ＨＳＢＣ、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、フランスのパリバ銀、
ソシエテ・ジェネラルなどの世界的な金融機関でそれぞれ数億～数十億ドルの
損失が避けられない見通しだ。

　このほか、欧州の上場ヘッジファンド最大手英マン・グループ、
米自動車大手ＧＭ（ゼネラル・モーターズ）系金融会社ＧＭＡＣの会長が運営する
ファンドや大リーグのニューヨーク・メッツ球団オーナーが社長を務める
不動産開発会社傘下のファンドも損失を出した。

　米紙ウォールストリート・ジャーナル（電子版）は米映画監督スティーブン・スピルバーグ氏
の慈善団体やノーベル平和賞受賞者のエリー・ウィーゼル氏の財団も被害に遭ったと報じた。

　マドフ容疑者の逮捕を受け、ＳＥＣ（米証券取引委員会）の検査官１０人以上が週末を
返上して、バーナード・マドフ証券の調査を実施。ＳＥＣに登録している
証券・投資顧問業務以外に、マドフ容疑者が未登録の資金運用業務に携わっていたことを突き止めた。

　マドフ容疑者は、会社が登録した投資顧問業務や証券の仲介業務などの
本来業務とは別に、個人の“サイドビジネス”として、こうしたねずみ講まがいの資金集めを行っていた。

　マドフ証券の入居するビルの１６、１８階を同社の本業のオフィスに充てていたが、
１７階には、社員も立ち入りを禁止され、「フランク」と名乗る見知らぬ人物だけが出入り
していたという。しかし、投資家からどれだけの資金の運用を委託されていたかや、
事件に関与した人物などは明らかではなく、当局は実態解明を急いでいる。

　≪慈善団体窮地に≫

　マドフ容疑者は一時期、ナスダック・ストック・マーケット（現ナスダックＯＭＸグループ）の
会長を務め、有識者として市場規制方法をアドバイスするなど米証券業界の大物だった。
これとは別に著名な慈善家の顔も持っていた。

　運用で被害を出した慈善団体がある一方、マドフ容疑者が逮捕されたことで、
複数の慈善団体が資金を絶たれ苦境に立たされるとみられている。

　１９６７年のミュージカル「ヘア」こけら落とし公演で有名なニューヨークの「パブリック・シアター」
に昨年５万ドル（約４５４万円）を寄付。恵まれない子どもを支援する「ロビンフッド基金」や
反飢餓計画運営の「シティ・ハーベスト」、マイノリティー学生向け奨学基金
「プレップ・フォー・プレップ」などにも大口の寄付を行っていた。

　さらに、骨髄移植のドナー候補者情報の電子化情報を管理する「ギフト・オブ・ライフ骨髄移植」
基金に１００万ドルを寄付した。ブルームバーグ・ニュースの元リポーターで、マドフ容疑者の
おいにあたるロジャー・マドフ氏が２００２年、白血病と診断され、０６年に３２歳で他界した経緯がある。
同年にマドフ容疑者が団体に寄付した金額は、同団体に対する支援の３分の１以上を占めていたが、
事件との関連は明らかではない。（Ｄａｖｉｄ　Ｓｃｈｅｅｒ、Ｄａｖｉｄ　Ｇｏｌｖｉｎフジサンケイにて）